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2017年6月24日 (土)

処女と栗の花

 知人の男性と酒を飲んだら、何やら憮然としている。何かあったのかと尋ねたら「いや、娘のことなんだが……」と打ち明けた。
 彼には高校生の娘さんがいる。その年頃にしては父親と仲がよく、一緒に散歩にもつきあってくれる。会話も多いので、娘さんのことは何でも分かってる、と思っていた。
 ところが最近、散歩の途中、道端に栗の木があって、花が満開になっていた。知ってる人は知ってるけれど、独特の匂いが頭上から降りかかってきた。その匂いを嗅いだ時、娘さんが一言、「エッチな匂いねえ」と呟いたんだそうだ。
「そ、そりゃ、ショックだわな」とぼくも驚いた。彼も「まさか『エッチな、ってどういう意味だ?』とも聞けないし、聞こえないふりして通りすぎたけれどねえ、うーむ」と唸りながら苦い顔して酒を舐めていたよ。
 そうしたら同席していた若いホステスさんが不思議そうな顔をして質問してきた。
「あの、それ、どういうことですか? 全然意味分かんないですけど」
 聞いてみると、彼女は栗の花の匂いを知らない、嗅いだことがない、どんな木なのかも知らないという。
 関東では梅雨まっさかりの今の季節、栗の木は細長い房状の、うす黄色の花を咲かせる。その時に放たれる匂いは奇妙に青臭く、ハッキリ言えば精液の匂いそっくりなんである。精液の匂いの原因であるスペルミンという物質が栗の花粉にも含まれているからだ、という説があるが、どうもそれは違うらしい。しかし精液の匂いを知っていれば、誰だって「あの匂い」だと思うだろう。「若後家が立ち止まりけり栗の花」という川柳があるぐらいだ。ホステスさんもようやく分かった。
「えーっ、それってお嬢さん、精液の匂いを知ってるってことですか!?」
「それを言ってくれるな〜」と友人は頭を抱えた。彼としてはまだ、娘さんは処女だと思っていたいのだ。いやもう慰める言葉もない。
 ぼくなんか、住んでいた家の門前に栗の木があって、花が咲くとあの匂いがプンプンするので「あれ、オナニーのあと、よく拭いてなかったのかな」と錯覚したものだ。
 調べると、最近はあの匂いが嫌われて、住宅が多い地区では苦情が出るので切られてしまうそうだ。その結果、ホステスさんのように栗の花の匂いを知らないで育つ人も多いらしい。まあ、栗の木の下をこの時期に通る若い娘さんは気をつけよう——というお話。
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